在庫削減には、無駄なコストの削減やキャッシュフロー改善など、さまざまなメリットがあります。しかし、在庫削減を進めるにあたって課題を抱えている企業も少なくありません。この記事では、在庫削減を進める目的、メリット・効果、手順や方法を詳しく解説しています。在庫削減を目指している場合は、ぜひ参考にしてください。
在庫削減の目的
在庫削減の目的は、過剰在庫によって生じているビジネスへの悪影響を取り除くことです。過剰在庫によるキャッシュフローの悪化や、コストの増大、非効率な事業活動などを改善するために必要とされています。つまり、在庫削減は企業経営を健全化する方法の1つといえます。
在庫削減の効果・メリット
製造業や卸業などでは、在庫削減に積極的に取り組んでいます。ここでは、企業が在庫削減によって得られる効果やメリットを解説します。
無駄なコストを減らせる
過剰在庫があると、その分、保管スペースが増えてしまいます。さらに、保管する物によっては空調管理のための光熱費が必要になり、コンディションを点検するための人件費も増えてしまうでしょう。これらの無駄なコストは在庫削減をすることで減らせます。
キャッシュフローを改善できる
在庫はお金を支払って仕入れる資産です。つまり、過剰在庫は資金の滞留であり、キャッシュフローを悪化させる要因といえます。在庫削減に取り組めば、現金化できない、あるいは費用として計上できない資材、商品を減らせます。また、在庫調達のための不必要な借入金を減らし、その分の資金を他の事業に回してキャッシュフローを改善できます。
正しい経営状況が把握できる
在庫が多ければ帳簿上の利益が増え、正確な経営状況が把握しにくくなります。会計上、在庫を仕入れる段階で出費は生じず、見かけ上の資産が増えるためです。このため、実質的に赤字であるのに、帳簿上は黒字にみえる場合があります。 したがって、適切な在庫削減ができていないと、経営上の問題に気付くのが遅れるケースがあります。経営者が正しい経営状況を把握するためにも、適正な在庫量にしておくことが大切です。
商品を良好な状態で保管できる
商品によっては、倉庫に長く置いておくと品質が劣化してしまうものもあります。たとえば、木材を湿度の高い場所に放置していれば、カビが発生する可能性が高くなってしまうでしょう。 在庫削減に取り組むと、商品、資材が出荷されるサイクルが早まるため、倉庫に放置される時間が減ることがメリットです。商品、資材を良好な状態で保存できます。
在庫削減を進める手順
在庫削減を進めるには、どのようなステップを踏めばよいのでしょうか。ここでは、3つのステップに分けて、やるべきこととそのポイントを解説します。
1.現状把握
はじめに行うことが現状把握です。在庫数や保管方法など、現状の在庫管理状況を確認します。この際のポイントは、現場レベルで現状把握することです。たとえば、点検作業がIT化できておらず、非効率で不正確な状況になっていないかなど、細かなところまでチェックします。
2.適正在庫・適正在庫金額の算出
次に目標となる適正在庫と適正在庫金額を算出します。
適正在庫とは、欠品にも余剰在庫にもならない適正な在庫量です。一般的には「適正在庫＝安全在庫＋サイクル在庫」の計算式で求めます。安全在庫とは最小限保持しておくべき在庫であり、サイクル在庫とは発注から次回発注までに消費された在庫の半分です。 適正在庫金額は、売上に対する在庫金額の比率で決めます。一般的に、赤字企業は黒字企業より適正在庫金額の比率が高くなります。適正在庫金額が決められない場合は、売上高に対して8％以下を設定するとよいでしょう。
3.過去の売上データなどから在庫管理を最適化する
次に目標に向けての在庫管理の最適化に取り組みます。このプロセスで重要になることは、需要予測です。過去の売上データと受発注のタイミングなどから、どの時期にどれくらいの在庫が必要になるのかシミュレーションすることで、精度の高い需要予測ができます。予測に基づいて入庫を調整することで在庫削減ができるでしょう。
在庫削減するための7つの方法
ここでは、在庫削減を達成するための7つの方法を紹介します。自社に合った方法を検討する際の参考にしてください。
発注点を明確にする
発注点とは、在庫数量がいくつにまで減ったら発注をかけるか決めておく値です。発注点を明確にすれば、発注遅れによる欠品を防ぎながら、余剰在庫を抱えるリスクを下げられます。 この発注点を適切に決めるには、客観的なデータに基づいた裏付けが欠かせません。担当者の経験や勘に頼っているような事業所では、在庫過多や過少が生じてしまうでしょう。
1回の発注量を減らす
1回の発注量を減らして、こまめに仕入れる方法は、過剰在庫を減らす対策の1つです。たとえば1日10個使用する部品を100個仕入れたら10日分の在庫ですが、50個なら5日分に減らせます。
発注量を減らすとキャッシュフローを改善できることもメリットです。先ほどの例なら、50個分の費用を5日間現金として確保できる計算になります。
リードタイムを短縮する
リードタイムとは、発注から納品など、工程のはじめから終わりまでの所要時間です。リードタイムを短縮できれば、発注点を遅らせて余剰在庫を減らせ、1回の発注量も減らせます。
リードタイムを減らす方法はさまざまです。現在、多くの企業が取り組んでいることは、アナログ作業をIT化して、受発注や点検作業のスピードを高める方法です。この方法のメリットは後ほど解説します。
上流工程で在庫を持つ
製造業では下流工程になるほど製品に近づき、在庫の用途は限られてきます。1つの部品から複数の仕掛品ができ、それらの仕掛品から複数の製品が製造される仕組みです。したがって、仕掛品や製品の点数が増えるほど、在庫管理は複雑化します。しかし、1つの部品であれば、1種類の安全在庫を管理すればよいため、在庫管理を最適化しやすくなるでしょう。
部品・仕掛品を共通化する
製造業では、製品をつくるための部品や仕掛品を共通化する方法が効果的です。在庫品目が少なくなれば管理工程はシンプルになり、在庫削減に取り組みやすくなります。 さらに抜本的な施策は、製品数を減らす方法です。売上に貢献していない製品や、部品・仕掛品を共通にできない製品などを生産中止して、在庫削減につなげます。
原料の状態で管理する
原料に近い状態で仕入れることで、さまざまな用途に使えるようになります。たとえば、ホースやケーブルを長さ別に仕入れるのではなく、ロールで仕入れる方法です。 なるべく原料に近い状態で在庫を持っておけば、さまざまな用途で使えるようになります。1か所にまとめておけるうえ、在庫整理の負担も減るでしょう。ただし、自社加工のコストが増える点に注意が必要です。
各事業所の在庫状況を把握する
複数の店舗やサービス事業所などを持っている場合には、各事業場の在庫状況を一元管理できていると、在庫を最適化できます。たとえば、あるサービス事業所で保有する交換品が少なくなってきたら、その都度小ロットで発注すれば、1回の発注量を少なくできるでしょう。
結果として、無駄な在庫を抱えずに済むようになります。逆に、在庫が一元化されていないと、まとめて発注がかかるかもしれないため、余裕を持って在庫を確保しなければなりません。
在庫削減にIT化・DXが重要な理由
ここまで在庫削減の方法を紹介してきました。いずれの施策においても、在庫状況をデータで正確に管理できているかどうかがポイントです。
つまり、在庫削減を実現するには、在庫管理のIT化やDXが効果的といえます。ここではIT化やDXの具体的なメリットについて解説します。
ヒューマンエラーやタイムラグによる過剰在庫を防げる
ITツールを導入すると、数量のカウント間違いや転記ミスなどを減らせます。また、データ反映のタイムラグによる誤発注を防げることもメリットです。
たとえば、点検作業をスマートフォン・タブレットで行い、そのまま自動的に在庫管理ツールへの記入作業を完了させる方法があります。作業負担を減らせるうえ、ヒューマンエラーとタイムラグを減らせます。
在庫管理の属人化を防げる
在庫管理をベテラン担当者の経験や勘に頼ってしまっているケースは少なくありません。しかし、ITツールを導入すると、誰でも適切な在庫補充を実現できるようになります。
たとえば、発注点に達した場合に自動的に発注を促すことも可能です。また、過剰在庫を検知して、追加補充しないようにアラートを発せられます。こうした機能によって在庫管理の属人化を防げます。
在庫状況を一元化できる
在庫状況を電子データで扱うと、出荷や受発注などの情報をリアルタイムで一元管理できるようになります。インターネットで接続すれば、遠距離の店舗や事業所の在庫連携も可能です。
すべての在庫をまとめて管理することで、在庫削減も容易になります。たとえば、事業所Aで在庫が不足した際に事業所Bの在庫を回すなどしてカバーする体制を整えれば、適正在庫を低い水準に下げられるでしょう。
精度の高い需要予測ができる
過去の売上データや発注データは需要予測のための貴重な情報です。データを蓄えていくことで、精度の高い需要予測ができ、適切なタイミング・量の在庫補充ができるようになります。これによって在庫を抱え込んでしまうリスクが低くなり、在庫管理のコストも下げられます。
まとめ
在庫削減はコストカットやキャッシュフロー改善など、多くのメリットがあります。在庫削減につなげるには、適正在庫数の明確化やリードタイムの短縮など複数の方法があるため、自社に合った方法を実行していくとよいでしょう。
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